「よく洗って」の“よく”とは何秒なの?
台所の「なんとなく」を科学に変える、親子の安全レッスン
「ごはんの前に、手を“よく”洗いなさいね」
「そのお野菜、使う前に“よく”洗ってね」
私たちが子どもの頃から、何度も聞いてきたこの言葉。 でも、ふと考えてしまいます。その「よく」って、一体どのくらいの長さでしょう?
水でサッと濡らすだけ? 3秒くらい? それとも10秒?
ハンバーグをこねた後、生の鶏肉に触れた手。その「なんとなく」の洗い方で、本当に大丈夫なのかな…? そんな、ふとした不安を感じたことはありませんか。
これは、家庭の「なんとなく」を、親子で学べる「科学」に変えるための、小さな〈社会科見学〉です。食中毒という「見えない敵」から家族を守る、いちばん身近な安全のルールを探ってみましょう。
なぜ「洗う」ことが、そんなに大切なの?
そもそも、どうして私たちはこんなに「洗う」必要があるのでしょう。 それは、私たちの食卓を脅かす、目には見えない「食中毒菌(しょくちゅうどくきん)」という敵から身を守るためです。
O-157やカンピロバクター、サルモネラ菌…。名前は聞いたことがあるかもしれません。 彼らは、生の肉や魚、卵、そして時には土がついた野菜にも、こっそり隠れていることがあります。
彼らが一番怖いのは、「交差汚染(こうさおせん)」という得意技を持っていること。 これは、菌が「お引越し」してしまうことです。
【こわい「お引越し」の例】
- ママが、生の鶏肉をまな板で切ります。(菌がまな板と包丁に、こっそりお引越し)
- ママは急いでいたので、その包丁とまな板を水でサッと流しただけ。
- 次に、その包丁とまな板で、サラダ用のレタスを切りました。(菌がレタスに、またお引越し!)
- レタスは火を通さないので、菌がついたままサラダになって食卓へ…。
想像すると、ちょっとドキッとしますよね。 だから、「洗う」という行為は、この菌の「お引越し」を防ぐための、最も重要で強力な“バリア(防波堤)”なんです。
プロの現場の「安全ルール」って?
では、給食センターや食品工場といった「プロ」の現場では、どうしているのでしょう?
プロの現場では、「HACCP(ハサップ)」という安全ルールを使っています。これは、もともと宇宙飛行士さんのごはん(宇宙食)を安全に作るために考えられた、すごいルールなんです。
なんだか難しそうですが、考え方はとってもシンプル。 「危ないポイント(菌がつきそうな場所)」をあらかじめ見つけて、そこを徹底的に管理しよう!というもの。
家庭のキッチンで、一番「危ないポイント」はどこでしょう?
そう、まさに「生の肉・魚・卵を触った手」と、「それらに使った道具(まな板や包丁)」ですよね。
だからプロは、「なんとなく」では絶対に洗い ません。「いつ、何を、どうやって洗うか」が、科学的な根拠に基づいて、ちゃんと決まっているんです。
今日から気軽にできるポイント
私たちも、プロの知恵をちょっとだけ真似してみませんか? 曖昧な「よく」を、親子で楽しめる「具体的な数字」と「楽しいルール」に変える、3つのポイントをご紹介します。
ポイント①:「手の洗い方」をアップデートしよう
- 「よく」とは、ズバリ「30秒」が目安です! これは厚生労働省もおすすめしている時間。水だけでサッと流すだけでは、菌はほとんど落ちてくれません。
- 「ハッピーバースデー♪」の歌を、ゆっくり2回歌うと、だいたい30秒になります。親子で歌いながら洗えば、楽しい習慣になりますよ。
- 必ず「石けん(ハンドソープ)」を使いましょう。 石けんの泡が、菌を浮かせて洗い流してくれます。
- タイミングが命! 特に「生の肉・魚・卵を触った直後」は、絶対に洗ってください。ハンバーグをこねたら、野菜を触る前に、必ず「ハッピーバースデー♪」です。
ポイント②:「道具の洗い方」に“線”を引こう
- 菌のお引越し(交差汚染)を防ぐ、最大のコツです。
- 生の肉や魚を切ったまな板・包丁は、使い終わったら、すぐに「洗剤」でしっかり洗いましょう。
- そのあと「熱湯」をサッとかけてあげると、さらに安心!(やけどには注意してくださいね)
- もしできれば、お肉・お魚用と、野菜・果物用で「まな板を分ける」のが理想です。100円ショップのものでも十分。色を変えると、子どもにも「こっちはお肉のマークだね」と分かりやすくなります。
ポイント③:「野菜の洗い方」にも、小さなコツ
- 土がついた野菜(じゃがいも、にんじん、泥ネギなど)は、先にしっかり洗って土を落としましょう。土の中にも菌は隠れています。
- レタスやキャベツは、一番外側の葉を1〜2枚むいてから、流れる水でサッと洗うだけで十分です。
「知っている」が、家族を守るお守り
食中毒の予防は、「面倒くさいルール」ではなく、家族の大切な健康を守るための「科学的な知恵」です。
「なんとなく」で不安に思うよりも、「こうすれば大丈夫!」という具体的な方法を知っていること。 それが、親子の食卓をいちばん「安心」で「おいしい」場所にしてくれる、強力なお守りになります。
さあ、次のハンバーグを作る日は、ぜひ親子で「ハッピーバースデー♪」を歌いながら、楽しく手を洗ってみてくださいね。



