わが子の“苦手”と、「みんなで食べる」ことのジレンマ
「今日の給食、〇〇を残しました」
連絡帳に書かれた先生からのひと言や、子どもが持ち帰った給食着の匂いで、ふとよぎる不安。
「うちの子、ちゃんと食べてるのかな…」
「みんなと一緒なのに、残して恥ずかしい思いをしてない?」
「栄養バランスを考えて作ってくれてるのに、申し訳ないなあ…」
家では好きなものばかり食べているけれど、集団生活で大丈夫だろうか。
全国の学校で、たくさんの「食べ残し(残食)」が出ているというニュースも聞くけれど、いったい、なぜなのでしょう?
これは、ただの「好き嫌い」という言葉では片付けられない、給食の「見えない裏側」を探る、親子のための〈社会科見学〉です。
「残しちゃう」のには、ワケがある
私たちが思う以上に、子どもたちにとって「給食」は、毎日がんばっている“ミッション”なのかもしれません。
「残しちゃダメ」という正論だけでは解決しない、子どもたちなりの「理由(ワケ)」を見てみましょう。
1. 理由:「時間との戦い」が、想像以上にシビア!
- 実は、今の子どもたちの「給食時間」は、とっても短いことがあります。
- 授業時間をしっかり確保するために、準備から片付けまで含めて40〜45分。その中で、配膳して、食べて、おしゃべりもして…となると、実際に「食べる」時間は15〜20分しかない、なんてことも。
- 大人の私たちだって、20分で定食を食べるのは慌ただしいですよね。食べるのがゆっくりな子にとっては、まさに時間との戦いです。
2. 理由:「家では会わない」食材との出会い
- ひじきの煮物、高野豆腐、切り干し大根、レバー…。
- 栄養満点なのは分かっているけれど、家であまり食べ慣れていない、ちょっと独特な食感や味のものって、ありますよね。
- 子どもにとって、それは「未知との遭遇」。いきなり「食べなさい」と言われても、心の準備が追いつかないのは、当たり前かもしれません。
3. 理由:「完食指導」という“プレッシャー”
- 「残さず食べようね」という言葉は、食べ物を大切にする、とっても素敵な日本の文化です。
- でも、その言葉が強くなりすぎて、「食べ終わるまで昼休みにいけない」「苦手なものも、泣きながら食べる」という「完食指導」のプレッシャーになってしまうと…。
- 子どもにとって、給食は「楽しい時間」から「苦しい試練」に変わってしまいます。その結果、「給食そのものが嫌い」になってしまう子もいるのです。
4. 理由:栄養士さんの「愛」が、届きにくい
- 給食を作ってくれている栄養士さんや調理員さんは、実はすごいヒーローです。
- 「地元の野菜を使おう(地産地消)」「旬の味を感じてほしい」「アレルギーの子も安全に食べられるように」…と、限られた予算の中で、ものすごい工夫と愛情を注いでくれています。
- でも、その「隠された想い」は、慌ただしい給食の時間の中では、なかなか子どもたちに届きにくいのが現実です。
今日から気軽にできるポイント
「じゃあ、家ではどうすればいいの?」
「無理やり食べさせる練習なんて、したくないし…」
大丈夫。家庭は「練習の場」ではなく、「安心の基地」です。
「残しちゃダメ!」と叱るのではなく、「給食って楽しいかも」と思えるような、小さな“予習”をしてみませんか?
ポイント①:最強のアイテム、「献立表」で予習しよう!
- 冷蔵庫に貼ってある「献立表」、ぜひ親子で見てみてください。これ、最高の「予告編」なんです。
- 「あ、明日はわかめご飯だ!ママも好きだなあ」
- 「“かみかみ和え”だって。どんなのだと思う?」
- 「金曜日は、〇〇県(地元の名前)のじゃがいもが出るんだって!」
- 前日にたった1分話すだけで、子どもの心の中に「あ、これ知ってるやつだ!」という安心感が生まれます。心のハードルを下げてあげることが、一番の応援です。
ポイント②:家では「一口だけ」の勇者を応援しよう
- 家で苦手なものが出たとき、チャンスです。
- 「全部食べなさい!」ではなく、「勇気を出して、一口だけチャレンジしてみない?」と誘ってみましょう。
- もし挑戦できたら、「うわー!食べた!すごい勇気だね!」と思いっきり褒めてあげる。
- 「食べられた」という成功体験が、「給食でも、ちょっとだけ頑張ってみようかな」という自信につながります。
ポイント③:「減らしてもらう」練習も、大切
- 無理やり配られて、残して、罪悪感を持つ…。これは、誰にとってもつらいですよね。
- そこで、「どうしても食べきれないと思ったら、配膳の時に『ごめんなさい、少し減らしてください』って、勇気を出して言ってみるのもアリなんだよ」と、別の選択肢を教えてあげましょう。
- 自分で「適量」を知り、それを伝える。これも、大切な「生きる力」です。
給食は、「社会」を味わう最初のひとくち
学校の給食は、ただお腹を満たすだけのものではありません。
「時間」というルールの中で、家とは違う「文化(メニュー)」に出会い、栄養士さんという「作り手」の想いに触れる。
それは、子どもたちにとって、初めて「社会」を味わう、大切な練習の場所なんです。
だから、全部食べられなくたって、大丈夫。
「今日は一口食べられたんだ!」「こんなメニューが出たよ!」
そんな食卓の会話こそが、子どもの「食べる力」を、ゆっくり、確かに育ててくれるはずです。




