スーパーで見かける“きれいな野菜”と、私たちの未来
スーパーの野菜売り場で、ひときわ目を引く野菜たち。
土ひとつついていない、虫食いの穴もない、まるで印刷されたみたいにきれいなレタス。きれいにパック詰めされて、一年中、同じような値段で並んでくれています。
便利だな、きれいだな、と思う一方で、ふと不思議に思いませんか?
「どうして、わざわざ建物の中で野菜を作るんだろう?」
「お日さまを浴びていないのに、栄養はあるのかな?」
「土で育った野菜と、何が違うんだろう?」
その小さな「?」は、私たちの食卓と「未来の農業」をつなぐ、とっても大切な入り口です。
今回は、その“工場の野菜”の秘密を、一緒に見学してみましょう。
「工場のレタス」が生まれた理由
あのきれいなレタスが育つ場所は、「植物工場(しょくぶつこうじょう)」と呼ばれています。
ビルの中などで、LEDライトを太陽がわりに、土の代わりに栄養を溶かした水(水耕栽培)で野菜を育てる、まさに「未来の畑」です。
でも、どうしてそんな畑が必要になったのでしょう?
それには、私たちがいつも悩まされている、あの問題が関係していました。
1. 「天気のキマグレ」から卒業したい!
私たちがよく知っている畑(露地栽培)は、自然が相手。台風が来たり、雨がずっと降らなかったりすると、野菜はうまく育ちません。
その結果、「今年はレタスが1玉400円!」なんて、びっくりする値段になることもありますよね。
植物工場は、天気や季節と関係ない「建物の中」。
だから、一年中、同じ品質の野菜を、同じくらいの値段で、安定して作ることができます。これは、私たちの家計にとって、とても嬉しいことですよね。
2. 「安心」をもっと身近にしたい!
植物工場は、とってもクリーンな環境です。
- 土を使わないから、泥がついていない。
- 虫が入る心配が(ほとんど)ないから、農薬を使う必要が(ほとんど)ない。
だから、洗わずにそのまま食べられるものも多く、「安全・安心」を求める私たちにとって、心強い味方になってくれます。
3. 「運ぶ距離」を短くしたい!
畑は広い土地が必要ですが、植物工場は都会のビルの中でも作れます。
消費地(私たちが住む街)のすぐ近くで作れるので、遠くの産地からトラックで何時間もかけて運ぶ必要がありません。(フードマイレージの削減)
だから、採れたての新鮮さのまま、私たちの食卓に届くんです。
ピカピカの未来? 知っておきたい“ジレンマ”
いいことずくめに見える植物工場ですが、実は、私たちが考えなくてはいけない「ジレンマ」も抱えています。
それは、「太陽」と「電気」のトレードオフです。
外の畑が、自然の「太陽の光(無料)」を使っているのに対して、植物工場は、大量の「LEDライト(有料)」を使います。さらに、一年中快適な温度を保つために、エアコンもずっと動いています。
つまり、たくさんの「電気(エネルギー)」を使っているんです。
もし、その電気を作るためにたくさんの化石燃料を使っていたら…それは本当に、地球にやさしいと言えるでしょうか?
もちろん、技術はどんどん進んでいて、使う電気を減らす工夫や、再生可能エネルギーを使う試みも始まっています。
「天気には左右されないけれど、電気代には左右される」というのが、植物工場のもう一つの顔なんですね。
今日から気軽にできるポイント
「じゃあ、土の野菜と工場の野菜、どっちを選べばいいの?」
そう迷ってしまいますよね。
完璧な「正解」はありません。だからこそ、私たちにできる「今日から気軽にできるポイント」は、2つの未来を食べ比べて、家族で「わが家のお気に入り」を話してみることです。
ポイント①:親子で「食べ比べ」選手権
- スーパーで、「植物工場のレタス」と、「土で育ったレタス(地元のものなら最高!)」を、両方買ってみましょう。
- お皿に並べて、親子で食べ比べてみます。
- 「どっちがシャキシャキする?」「どっちが野菜の味が濃いかな?」
- 工場のレタスは、味がマイルドで、苦味が少なく、シャキシャキ感が強いことが多いかもしれません。土のレタスは、少し土の香りがして、力強い味がするかもしれません。
- どっちが「良い・悪い」ではなく、どっちが「好きか」を話してみましょう。「この料理にはこっちが合うね!」そんな発見があれば、もう立派な探究です。
ポイント②:キッチンで「豆苗(とうみょう)」工場
いちばん身近な植物工場体験は、キッチンの「豆苗」です。
根っこがついた豆苗を買ってきて、食べた後の根を水につけておくと、また新しい芽が出てきますよね。あれこそ、土を使わない「水耕栽培」の仲間です。
「お日さまの力ってすごいね」「お水だけで育つって不思議だね」と話しながら、命の育つ様子を観察してみましょう。
どちらの未来も、私たちの食卓にある
植物工場は、これまでの農業の「敵」ではありません。
異常気象や人手不足といった問題を解決するために生まれた、新しい「選択肢」の一つです。
大切なのは、「工場はダメ」「土じゃなきゃ」と決めつけることではなく、それぞれの「得意なこと」と「ちょっと苦手なこと」を、私たちが知っておくこと。
土で育つ力強い野菜の物語も、工場で育つクリーンな野菜の物語も、どちらも知った上で選ぶ。
その小さな選択こそが、私たちの食卓と未来を、豊かにしてくれるはずです。



