お魚の“おかわり”を守る、海との約束
食卓に並んだ、おいしそうな焼き魚。 ほかほかと湯気が立ち、香ばしい匂いが広がります。「わあ、おいしそう!」「お魚、大好き!」 そんな声が聞こえる中、子どもがふと、こんな「?」を口にするかもしれません。
「漁師さんって、お魚を獲るのがお仕事なんでしょ?」
「だったら、海にいるお魚、ぜんぶ獲っちゃえばいいのに。なんで途中でやめるの?」
たしかに、不思議ですよね。 お仕事なら、頑張ってたくさん獲った方がいいはず。それなのに、漁師さんたちは自ら「これ以上は獲らない」というルールを決めていることがあります。
それは、まるで「宝箱の鍵を、あえてかけ直す」ような行動です。 なぜ、そんなことをするのでしょうか?
これは、私たちの食卓と、広い海、そして未来をつなぐ、大切な「命の約束」をめぐる〈社会科見学〉です。
もしも、ルールがなかったら?
この「?」の答えは、とってもシンプル。 もしも、海に「ルール」がなかったら、どうなってしまうでしょう。
想像してみてください。 みんなが「よーいドン!」で、好きなだけ魚を獲り始めたら。 Aさんが100匹、Bさんが200匹、Cさんは大きな網で1000匹…!
最初はたくさん獲れて、みんなハッピーかもしれません。 でも、あっという間に海からは魚がいなくなってしまいます。 お父さんやお母さんになるはずだった小さな魚も、これから卵を産むはずだった魚も、みんな獲られてしまったら…?
来年、海には一匹も魚がいないかもしれません。
そうなったら、私たちも、もう二度と美味しいお魚が食べられなくなってしまいます。 そして、誰よりも困るのは、漁師さんたち自身。お仕事がなくなってしまうからです。
この「みんなで使うと、なくなっちゃう」という問題は、海で生きる漁師さんたちが、誰よりも深く、昔から知っていたことなんです。
漁師さんこそが、最高の「海の番人」
だから、漁師さんたちは決めました。 「海の恵みを、来年も、10年後も、100年後も、みんなで美味しく食べられるように。私たち自身が、海を守る“番人(ばんにん)”になろう」と。
漁師さんたちが決めた「獲りすぎない」ルールには、大きく分けてこんな「海の知恵」が詰まっています。
1. 「小さい子は、またね!」ルール
- 資源管理:サイズ制限
- とっても小さな魚(赤ちゃんや子ども)が網にかかったら、「大きくなって、お父さんお母さんになってね」と、海に逃してあげるルールです。未来の命を守る、やさしい約束ですね。
2. 「お母さんのお休み」ルール
- 禁漁期間:きんりょうきかん
- 魚たちが、卵を産む大切な時期(産卵期)。その時期は、「みんな、そっとしておこう」「今は獲るのをお休みにしよう」と、漁師さんたちが一斉にお休み(禁漁)するルールです。
3. 「みんなで“パイ”を分ける」ルール
- 漁獲枠:ぎょかくわく / TAC
- 「今年のこのお魚は、海にこれくらいいるから、みんなで分けても大丈夫なのは、ここまでだね」と、年間に獲っていい「全体量(パイ)」をあらかじめ決めておくルールです。みんなで少しずつ我慢して、来年の「おかわり」を残しておく、賢い知恵です。
漁師さんたちが「獲りすぎない」のは、怠けているからでは決してなく、海と、魚と、そして私たちの未来の食卓を、真剣に守ってくれているからなんですね。
今日から気軽にできるポイント
「漁師さんたち、ありがとう!」 そんな素敵なルールを知ったら、私たちも何か応援したくなりますよね。 大丈夫、食卓からできる、とっても簡単で楽しいポイントがあります。
ポイント①:「旬のお魚」を、主役にしよう!
- お肉やお野菜と同じで、お魚にも「旬(しゅん)」があります。
- 旬のお魚は、その時期に海で一番たくさん獲れる、元気いっぱいのお魚のこと。
- 「旬のお魚」を選ぶことは、自然のサイクルに合った、海に無理をさせていない証拠。「アジが美味しい季節だね」「サンマの季節が来たね」と、旬を味わうことこそが、漁師さんへの最高のエールになります!
ポイント②:「海の“お墨付き”」を探してみよう
- スーパーのお魚コーナーで、「青い魚のマーク(MSC認証)」や「緑の魚のマーク(ASC認証)」を探してみませんか?
- これらのマークは、「このお魚は、海や自然のことをちゃんと考えて、さっきの『獲りすぎないルール』を守って獲られました(または育てられました)よ」という、世界共通の“お墨付き”サインです。
- このマークを選ぶことは、「ルールを守ってくれてありがとう!」という、漁師さんへの「いいね!」投票になるんです。
ポイント③:「ルールに、ごちそうさま」を言おう
- 魚を食べる時、命をいただく「いただきます」に加えて、もう一つの気持ちを込めてみませんか。
- 「このお魚が食べられるのは、漁師さんが小さい子を逃してくれたおかげだね」
- 魚の命だけでなく、それを守ってくれた漁師さんの「知恵」と「我慢」にも、心から「ごちそうさま」を伝える。それだけで、いつもの焼き魚が、もっともっと、ありがたくて美味しい宝物になりますよ。
「獲らない勇気」が、未来を連れてくる
漁師さんたちが決めた「獲りすぎない」ルール。 それは、「獲る勇気」よりも難しいかもしれない、「獲らない勇気」です。
その勇気のおかげで、今日も私たちの食卓に、美味しい魚が届いています。
私たちにできることは、その物語を知り、「旬」を選び、「ありがとう」の気持ちで味わうこと。 その小さな選択が、海の番人である漁師さんたちを支え、豊かな海を未来につないでいく、いちばんの力になるはずです。



